News
10ページ中1ページ目を表示 (全95項目)
注目ニュース


|  1  |  2  |  3  |  4  |  5  |  6  |  7  |  8  |  9  |  10  |

【先人達の偉業を思う】

 楽しい話題ではなくて申し訳ありませんが、先頃、生命科学の分野の先人達が何人も亡くなっています。
 樹状細胞と獲得免疫の研究を行い、自らの研究成果を使用した免疫療法での闘病生活を送っていたR. Steinman博士(1943-2011)が昨年、ノーベル賞を受賞するほんの数日前に他界していたことは、ニュースなどで覚えている人もいるでしょう。死者には贈られないノーベル賞ですが、選考委員会が死去を把握していなかったことから、彼の受賞は取り消されず、その功績が称えられました。
 この正月に亡くなったJ. Crow博士(1916-2012)は集団遺伝学の大家で、その後の進化遺伝学に多大な影響を与えた人物です。日本人の弟子も多く、分子進化の中立説を提唱した木村資生博士もその一人です。
 N. Zinder博士(1928-2012)はファージによる細菌の形質転換を行ったり、合成RNAによる遺伝暗号解読に寄与した人物ですが、後に米国科学アカデミー(NAS)の会長を務め、ヒトゲノムプロジェクトを推し進めたことも重要な業績です。
 L. Margulis博士(1938–2011)はオルガネラの細胞内共生説を唱えたことで知られ、当サイトのコラム(リンク)でも紹介している、「五つの王国(原題:Five kingdoms)」という膨大な数の生物種を記した図説は今でも有用で、高く評価されています。
 ヒトゲノム計画の提唱者の一人でもあるR. Dulbecco博士(1914–2012)の開発した最小必須培地(Dulbecco’s minimum essential medium、DMEM)は、ヒト、サル、ハムスター、ラット、マウス、ニワトリの細胞を含むほとんどの種の細胞の培養を可能にし、今後も生命科学の世界に欠くべからざるものとして用いられていくでしょう。
 彼らのご冥福をお祈りしたいと思います。(TK)

Nature 7367, p.13
Scicence 6055, p.466
Nature 7382, p.444
Science 6070, p.812
Science 6074, p.1316
Science 6066, p.302
Science 6076, p.1587
Nature 7390, p.408


(2012年04月20日記載)


【2色性色覚が有利になるとき】

S_labiatus.jpg

 人間を含む狭鼻猿類(*)は、青・赤・緑を感じる3色性色覚です。これは、常染色体上の青、X染色体上の赤の視物質を作る遺伝子に加え、赤の遺伝子の隣に、赤の複製が変化して生じた緑の遺伝子をもつからです。それに対し広鼻猿類(*)は、青と赤の遺伝子しかもたないため2色性色覚のはずなのですが、一部のメス個体は3色性色覚であることが知られています。
 そのカギは赤の視物質です。広鼻猿類の集団内には、赤以外に赤から少しずれた色を感じる多型が2つ存在します(仮に「黄」と「緑」とします)。つまり、ある個体のX上には、赤・黄・緑のいずれか1つがあるわけです(X、X、X)。広鼻猿類のオス(XY)は、青に加えてこのどれか1つという2色性色覚ですが(常XYなど)、メス(XX)の場合は、2本のX上の遺伝子が同じ色でない限り、3色性色覚になります(常XXなど)。
 3色性色覚には、濃い緑の葉の間にある赤や黄の果実や、柔らかくて美味しい黄緑の若芽を見つけるのに都合が良いことなど、生存に有利な点があるように思えます。そのため、メスの一部に限るとはいえ、2つの遺伝子で3色性色覚を獲得するために必要な視物質の多型が集団内に維持されているのだと思われていました。
 しかし近年、2色性色覚が有利な点もあることが判ってきました。それは、薄暗がりでは良く見える、空間的な視覚に優れる、などです。さらに、樹皮や葉に擬態した昆虫を見つけやすいということが、広鼻猿類の一種、タマリンについて最近証明されました(右図はムネアカタマリン、日本モンキーセンターより)。擬態に重要な「色」が見えにくいことで、逆に色にごまかされずに昆虫の輪郭を見つけやすいのだと考えられます。実際に、一般的な昆虫を捕える能力は3色性色覚個体の方が上でしたが、擬態している昆虫に関しては、2色性色覚個体の方が上でした。
 以上のことから、広鼻猿類では、食べ物を捕まえる得意分野を個体ごとに分散することにより、食べ物の枯渇を防いでいる可能性があります。また、例えば2色性色覚の個体には「青・赤」、「青・黄」、「青・緑」をもつ3タイプがあるわけですが、それぞれ探すのが得意な色の果実が異なることも、食べ物の多様化につながるようです (KK)。

*狭鼻猿類には、ヒト・チンパンジー・ゴリラ・オランウータン・テナガザル・ニホンザルなどが、広鼻猿類には、タマリン・マーモセット・ヨザル・ホエザルなどが含まれる。

【参考文献・サイト】
Smith AC et al. (2012) Anim. Behav.
Nature 481, 116 (12 January 2012)
日本モンキーセンター


(2012年03月02日記載)


【訃報:Har Gobind Khorana博士(1922-2011)】

2011年11月、有機化学者で核酸化学のパイオニアでもあるコラーナ博士が逝去された。
コラーナグループによって積み重ねられてきた、長鎖核酸の化学合成手法やヌクレオチド誘導体合成手法などに関するさまざまな基礎研究は、現在の分子生物学、ゲノム科学研究者が日常の研究で何気なく使っている合成オリゴヌクレオチドや標識ヌクレオチド、DNAシーケンシング技術の化学的裏打ちとなっている。こうした数々の功績により、コラーナ博士は1968年にノーベル医学生理学賞を受賞されている。
私は残念ながら博士とは直接の面識がないが、コラーナ研究室で学ばれた多くの諸先輩たちが、日本の化学・分子生物学の基礎を築いてきたといってよいだろう。また、Journal of Molecular Biologyという科学雑誌で、コラーナ研究室からの論文がある号の一冊全部を埋め尽くしていたことも記憶に残る出来事であった。
博士のご冥福をお祈りしたい。(AFJ)


(2012年01月26日記載)


【シーラカンスは確かに四足動物と魚類の遺伝子を併せ持っていた】

Juvenile2.jpg

 昨年の最後のニュースに続き、生きた化石の話題をもう一つ。このほど、東京工業大学、国立遺伝学研究所、東京大学が次世代シーケンサを用いて、短期間でタンザニア産シーラカンスの全ゲノムを解読したそうです。生きた化石としてとても有名なシーラカンスですが、肉鰭類に分類され、その名の通り鰭に筋肉があり、6500万年前から形を変えていないと考えられています。ゲノムサイズは普通の魚類の約4倍、ほぼヒトと同じで、四足動物※タイプの遺伝子と魚類タイプの遺伝子を併せ持つことがわかりました。魚類から四足動物への進化を繋ぐ生物であることが証明されたと言えるでしょう。さらに今後研究が進めば、四足動物への進化の道筋が明らかになっていく事が期待されます。(TK)

※四足動物:魚類以外の脊椎動物の総称で、両生類・ハチュウ類・鳥類・哺乳類を含む。

【参考サイト】
最近の研究成果:東京工業大学
「生きた化石シーラカンスの全ゲノム塩基配列を解読」(国立遺伝学研究所、pdfでの詳細なプレスリリース


(2012年01月11日記載)


【ソテツは生きた化石なのか?】

P1010656s.jpg

 ソテツをご存知でしょうか?日本では九州以南に自生する、イチョウ、マツなどの裸子植物の仲間です。現生のソテツの仲間には、10属約300種が知られており、主に、ソテツ属は東南アジア、ザミア属は中南米、マクロザミア属はオーストラリア、エンセファラルトス属はアフリカに生育します。ソテツの起源は約2億7000万年前にも遡り、最も繁栄したのは中生代前〜中期の約2〜1.5億年前で、古くから形を変えない、「生きた化石」と呼ばれたりしています。恐竜とセットでイラストが描かれたりしますし、ソテツの実の毒は恐竜との共進化の産物だという説もあります。
 「生きた化石」と呼ばれると、古くから形を変えないまま現在まで生き延びているような印象を受けますが、最近ナガリンガムらのグループが、現存のソテツ科10属について、それぞれに含まれる種が分かれ始めた時期を徹底的に調べたところ、驚くべきことが判明しました。ソテツ属、ザミア属、マクロザミア属、エンセファラルトス属は互いに遠縁で、1~2億年前にはすでに別属として確立しているのですが、それらの属に含まれる種の枝分かれの開始は、どれも約500万から1200万年前と極端に最近であることが明らかになったのです。言い換えると、ソテツの仲間は「生きた化石」とは呼ばれるものの、どの属についても約1200万年前の進化的には比較的最近といえる時期になって、一斉に世界各地で多様化を開始したように見えるのです。
 これはどう説明できるのでしょうか?おそらく、中生代に繁栄したソテツは、中生代末 (約6500万年前) に多くが絶滅し、僅かに残った系統(現存10属の祖先)も最近までは、新種が生じないか、生じても絶滅していたことが考えられます。最近の大陸移動で、それまでの世界的に均質な気候から、気温や雨量の年間変動が各地で異なる気候に変化したことにより、熱帯・亜熱帯で夏に大雨が降るという、ソテツの生育に適した地域が生じたことが多様化を引き起こしたのかもしれません。しかし現在、ソテツの約2/3の種は絶滅危惧種です。せっかく繁栄を再開したソテツが、また衰退しないと良いのですが。(KK)

Renner SS (2011) Science 334, 766-767.
Nagalingum NS et al. (2011) Science 334, 796-799.
Science誌334巻6057号日本語サイト


(2011年12月21日記載)


【凄いのは歯だけじゃない】

naked_mole_rat_rbk.jpg

 ハダカデバネズミという不思議な動物がアフリカの一部に住んでいます。地中で生活し、女王を頂点とした社会を営むこのネズミは、さまざまな驚くべき特徴を持っています。まずは、その寿命が非常に長いことで、体が小さい(8〜9cm)にも関わらず、最長30年以上も生存します(普通は大きな動物が長寿)。しかも、ほとんど老化せず、さらにはガンを全く発症しません。約8%の低酸素下(地上は21%)および10%以上の高二酸化炭素下(地上は0.04%)でも窒息しない一方で、体温をほとんど維持することができません。また、ある種の痛覚を欠くそうです。
これらの驚くべき性質を解明するために、ハダカデバネズミのゲノムを解析した結果が最近のNature誌に掲載されました。それによれば、遺伝子の数や並び方は他のネズミと大きく変わっていなかったのですが、これらの性質を説明できるようなゲノムや遺伝子発現パターンの変化が観察されたそうです。
一般の哺乳類では、加齢とともに多くの遺伝子の発現量が変化することが知られていますが、ハダカデバネズミにはそのような傾向がほとんど見られませんでした。このことは、老化の起こりにくさと関連していると思われます。
例外的に、細胞増殖を抑制するSmad3遺伝子は、ヒトなどとは逆に、加齢とともに発現量が増えていました。このことが、ガンを抑制している一因かも知れません。
さらに、低酸素下での生活には、低酸素誘導因子遺伝子の構造変化が関わっているらしいこと、体温に関係する非震え型熱産生遺伝子の1つに際立った構造変化が観察されること、痛覚に関わる神経ペプチド、サブスタンスPをコードする遺伝子の調節領域が大きく欠失していることなども明らかになりました。
 こうした遺伝子発現の恒常性や細胞増殖の抑制、低体温および低酸素下による代謝の低下などが、ハダカデバネズミに老化とガンの抑制を引き起こし、長寿命につながっているようです。まさに、細く、長く生きる…とは、ハダカデバネズミのことかも知れません(KK)。

【参考サイト】
ハダカデバネズミの動画上野動物園東京ZooNet

【参考文献】
Kim EB et al. (2011) Nature 479, 223-227.(原著論文の日本語要旨)
Nature誌479巻7372号
Nature 478, 156. (2011)(解説記事)


(2011年12月05日記載)


【サイエンスアゴラ2011に出展します】

11/18(金)から11/20(日)まで、お台場で、 サイエンスアゴラ2011 新たな科学のタネをまこう−震災からの再生をめざしてが開催されます。
サイエンスアゴラはは2006年から開催されている、科学をテーマにしたイベントで、公式ページによれば、
サイエンスアゴラとは、
サイエンスをとおしてみんなとつながる広場です。
サイエンスについてのおもしろいこと、気になること、さらにこれからのことを、一緒に楽しみ、語り合い、共有するイベントです。

とのことです。
日本語バイオポータルサイトでも、ブース企画を出展致します(企画紹介ページ)。
東京都立産業技術研究センター1階の日本語バイオポータルのブースへも、是非お立ち寄り下さい。

サイエンスアゴラの詳細は以下の通りです。

************************
サイエンスアゴラ2011
日 時: 2010年11月19日(土)、20日(日)
会 場: 日本科学未来館・産業技術総合研究所 臨海副都心センター・東京都立産業技術研究センター(東京・お台場)
テーマ: 「新たな科学のタネをまこう−震災からの再生をめざして」
参加費: 無料(一部のイベントで材料費等の実費をいただく事があります)
主 催: 独立行政法人科学技術振興機構(JST)
共 催: 日本学術会議、独立行政法人産業技術総合研究所、地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター、国際研究交流大学村、東京臨海副都心グループ

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
 サイエンスアゴラ2011開幕シンポジウム
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
【日 時】  11月18日(金)  13時30分〜16時 (開場13時)
【会 場】  国連大学ウ・タント国際会議場(東京青山)
【申込方法】 下記ウェブサイトの申込フォームにてお申し込みください。
      (当日受け付けもありますが、なるべく事前にお申し込み下さい)
【詳細情報】 http://scienceagora.org/OP2011/reg

【基調講演1】 鷲田 清一 様(前大阪大学総長、大谷大学文学部教授)
 「新しい社会のあり方〜市民として科学技術とどう向き合えばよいのか」
【基調講演2】 川幡 穂高 様(東京大学大気海洋研究所教授)
 「地球環境と人間圏の行くへ」
【パネル討論者】
 大西 隆様(日本学術会議会長、東京大学工学系大学院教授)
 片岡 正俊様(東京都立産業技術研究センター理事長)
 小林 傳司様(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授)
 最相 葉月様(ノンフィクションライター)
【コーディネーター】柳下 正治様(上智大学大学院地球環境学研究科教授)
************************


(2011年11月11日記載)


【あなたの目の前に】

あなたの目の前に、水の入ったコップが置いてあるとしましょう。水の表面は空気と接しています。好奇心の強いあなたは目の位置を上下に動かし、上の方、つまり空気が水に接する側から見える水の表面と、下の方、水が空気に触れる側から見える水の表面が、実は違うのではないかと思いはじめました。どちらが表裏かは別として、水と空気の境目を別々の側から見ているのですから当然の疑問です。科学を志すあなたは、この部分の厚さはどの位なのかと考え始めました。先生にも聞いてみましたが、「知らん」という答えが返ってくるだけでした。好奇心の強いあなたは「もしや」と思い、インターネットで検索してみることにしたのです。
water_surface.jpg するとNature誌の論文がありました。空気と水の境界面に存在する水分子の厚みは極めて薄く(3Å以下)、最上層の水分子は水素原子の半分が水素結合を作らず空気中に突き出た状態で水層にとどまっていることが書いてありました。その論文は、この界面の厚みが数分子どころか一分子しかない可能性さえも出てきたという報告で、たった一層の水分子が片方の水素分子だけで境界面の空気の影響を引き受けているかもしれないということでした。
実は生命科学を学んでいるあなたは、今日の実験中に怖い助教の先生から酵素溶液に泡を立てるなとさんざん言われたことを思い出しました。古くから酵素を扱う実験では「界面失活」と言われ、酵素液が空気と接する部分の表面積が大きい(つまり泡が立ったような状態)と、活性を早く失うといわれています。境界面での水分子の特別な配置が、この原因の一つかも知れません。(AFJ)
(図は、Nature 474, p.168- より許可を得て転載)

Nature 474, 168 (2011)日本語紹介記事
Nature 474, 192-195 (2011)日本語紹介記事


(2011年09月28日記載)


【赤外線感知にはワサビ、それともトウガラシ受容体?】

MP900313902.JPG

 一部のヘビには、「ピット器官」というものが存在します。これは、眼と鼻の間にある、「第3の眼」とも呼ばれる器官で、赤外線を感知することができます。熱をもった物体は赤外線を放射しますので、赤外線を感知することは、熱を感知することと似た意味になります。この能力は、暗闇において周囲よりも高い体温をもった、ネズミなどの餌となる哺乳動物を見つけることにつながります。
 赤外線も光の一種ですので、ピット器官には、眼と同じように視物質・オプシンと似たものが存在し、それが光を認識しているという説もありました。しかし、長年探索してもそのようなものは発見できず、どうやら、ピット器官は赤外線を熱として感知するのではないかということになりました。そして昨年、Grachevaらのグループが、ガラガラヘビのピット器官で熱に応答するものは、TRPA1と呼ばれるイオンチャネルであることを発見しました。TRPA1は他の脊椎動物にも存在しますが、化学刺激などを感じるという、別の役割を果たしています。面白いことに、人間ではTRPA1は、アリルイソチオシアネート、つまりワサビの辛味成分を感じる働きもしています。また、ピット器官はすべてのヘビに存在するわけではなく、ボアやニシキヘビの仲間(ボア科)とマムシの仲間(クサリヘビ科・マムシ亜科)だけがこれを持ちます。このことから、ピット器官は独立に2回生じた可能性も考えられています。
 最近、吸血コウモリ(注)では、別のイオンチャネル・TRPV1が、鼻のまわりにあるピット器官(リーフ・ピット)で熱感知に利用されていることが、再びGrachevaらによって発見されました。TRPV1は本来、不快なほどの高温(>43℃)を感知するためのチャネルなのですが、吸血コウモリにおいては、ピット器官の三叉神経節でのみ、この閾値(応答を始める温度)が約30℃に下げられていました。これにより、TPRV1は哺乳動物の体温を感知しやすくなっていると思われます。この温度調節は、膜貫通タンパク質であるTPRV1の細胞質部分を62アミノ酸だけ短くするような転写(mRNAの合成)制御でなされているのですが、この制御は、三叉神経節に限定して起こることが明らかにされています。
 なお、人間においてTRPV1は、熱感知のほかに、トウガラシの辛味成分・カプサイシンの受容体でもあります。ワサビ辛味成分受容体のTRPA1 同様に熱感知に使われるということは、辛味(痛み)・熱感覚は共通しやすいことを意味するのでしょう(KK)。

【引用文献】
Gracheva EO et al. (2011) Nature 476, 88-91.日本語要約
Fenton MB (2011) Nature 476, 40-41.日本語要約
Gracheva EO et al. (2010) Nature 464, 1006-1011.日本語要約

  (注)ナミチスイコウモリ(Desmodus rotundus)。吸血性のコウモリは少なく、鳥から吸血する種を除けば、これが唯一の哺乳類からの吸血種である。夜行性で昼間は洞穴で眠る。


(2011年09月21日記載)


【蛾の工業暗化の原因遺伝子が突き止められる】

black_white_small.jpg

生物IIの教科書と参考書の多くにオオシモフリエダシャクというガが登場します。英語でBritish peppered moth、学名がBiston betulariaという見た目もあまりぱっとしないこのガがこれほどまでに日本の生物学教育で取り上げられている理由は、自然選択による進化の実例として有名だからです。このガには、成虫の翅(はね)の色が明色と暗色になる多型が存在しますが、工業地域の一つであるマンチェスター地域で調べたところ、1800年代の初頭には少なかった暗色型が、わずか数十年の間に90%以上を占めるように急速に増加しました。この原因として、工業化につれて大気汚染も進み樹皮の表面が黒ずんだため、暗色型の方が生存に有利になるように進化したと説明されています。

このガを対象とした研究はその後も続けられ、暗色化が単一遺伝子の変化が原因であるらしいことはわかったのですが、一方でいくつかの問題も出てきました。生存に有利な原因として鳥による捕食から逃れられると多くの教科書では説明されているのですが、これにはしっかりとした証拠はないようです。近年は暗色型の占める比率は大きく低下しており、イギリス本島ではほとんど見つけられないとの調査報告も出ています。また、単一遺伝子の変化が原因とすると、これまでに何回暗色化が起きたのかという疑問も生じます。それに、いくら探しても原因となる遺伝子を見つけられませんでした。

そこで一役買ったのが、日本が中心となって決定したカイコのゲノム情報です。カイコとオオシモフリエダシャクとは同じ鱗翅類(りんしるい)昆虫なのでゲノムに相同性があるため、すでに決められているエダシャクの遺伝子配列を、カイコの体色に関する遺伝子がのっている17番染色体上の配列と順番に較べていくことができます。その結果を報告したScience誌の論文によると、暗色化に関わる遺伝子(carb)の位置を決めることができただけではなく、イギリスのリード地方で採集された暗色型個体のゲノムを調べたところ、すべての個体についてcarb領域が同じ変異型をもつことがわかったのです。つまり、イギリスの個体群を見る限り変異が起きたのは1回、それも進化の時間軸で見るとごく最近に当たる19世紀の初めにマンチェスター地方で起きた変異が広まったことまで明らかになったのです。教科書を修正する必要があるかも知れません。(AFJ)

BIRDGUIDES(英国のバードウォッチングサイト)
自然研究所(米国のNPO)
J. Hered. 96, 522 (2005) L. M. Cook, S. L. Sutton and T. J. Crawford
Science 332, 958 (2011) Arjen E. van’t Hof1, Nicola Edmonds1, Martina Dalikova2, Frantiaek Marec2, and Ilik J. Saccheri1,*
カイコゲノム解読 Insect Biochemistry and Molecular Biology 38 1036 1045 (2008) International Silkworm Genome Consortium.


(2011年08月03日記載)

  [次のページ]
  ご意見・お問い合わせ