進展する糖鎖研究
糖鎖に関する各マスメディアの情報には、先端の研究成果から健康ブームに乗じたものまで、さまざまなものがあります。そもそも糖鎖とはどんなものなのか?少し詳しく見ていきましょう。糖鎖と聞いてピンとこない方でも、ABO式の血液型は赤血球の表面に結合している糖鎖の構造的な差によって判別されていると知れば意外に身近に感じるかもしれません(さらに詳しく糖鎖と血液型の関係)。
糖鎖の基本構造は、単糖類が共有結合(グリコシド結合)したもので、いくつもの単糖が1本のヒモのように連なったものや、1本のヒモが途中から複雑に枝分かれしたものなど多種多様です。このように多様な形態が可能なのは、単糖類にヒドロキシ基という結合部位が多数存在するため、ここに結合する別の分子の種類と結合部位の位置の組み合わせによって構造の異なる糖分子ができるからです。
例えば、同じ化学式のC6H12O6で表される単糖でも、ヒドロキシ基の配置により、グルコース、ガラクトース、マンノースなどの構造の異なる異性体が存在します。さらにいくつもの糖が連なると、その組み合わせから生じる糖鎖の種類は、まさに無限といってよいほどです。これら多様な種類の糖鎖は、タンパク質や脂質とも結合(共有結合)して、糖タンパクや糖脂質をつくります。
糖タンパクや糖脂質は、主に細胞膜と結合して糖鎖が周囲を覆うような状態で存在しています。ちょうど、細胞膜表面に様々な種類の糖鎖がアンテナのように突き出ている状態と思って頂ければ分かりやすいでしょう。この細胞から突き出ている糖鎖は、細胞の自己と非自己を認識する抗原性をもつものもあります。また、単独で反応するのではなく、糖鎖同士の相互作用で機能していることが最近の研究で分かってきましたが、その種類と相互作用については、いまだ解明されていない点が多く残されています。
一方で、糖鎖に結合し、エンドサイトーシスの働きを利用して細胞内に侵入するウイルスもあります。その代表がインフルエンザウイルスです。このウイルスは、人工的に細胞膜の表面からシアル酸を除去した細胞には感染できないことが知られています。そのため、糖鎖の先端にシアル酸が結合しているシアロ糖鎖が感染に関係していることが考えられていますが、その分子機構はまだよくわかっていません。
最近の研究で、プロテオグリカンという物質が重要な働きをしていることが分かってきました。プロテオグリカンとは、硫酸基を持つ二糖が繰り返し結合してできた糖鎖(グリコサミノグリカン)とタンパク質とが結合して構成される糖タンパク質の一種です。最近の研究では、プロテオグリカンを単離して、マウスの海馬由来の脳神経と一緒に培養すると、脳神経の神経突起が伸長することが明らかになりました。これから先、糖鎖の多様な機能を一つ一つ明らかにすることで、医療技術に新しい展開をもたらす可能性があり、糖鎖研究は第三の生命鎖とも言われています。
実験医学(2007)Vol.25-No.7
岩崎健一郎(東京大学 理学部生物科学科)
会津 智幸
小林悟志・藤山秋佐夫(国立情報学研究所)
(2007年06月記載)

